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おじさんは反抗期 第一話 「駅の便所にて」 駅の便所はどうしていつも清掃中なのだ。 しかもぼくが使用したい時に限ってそうなのだ。なにか法則でもあるのか? だいたい駅の便所を使いたい時は、かなりの緊急事態なのだ。 小ならまだ良い。 しかし大の時、あの清掃中は絶対に容認できることではない。 しかもバケツを逆さまにした上にモップなどを乗っけて、わざとらしく、これ見よがしにバリケードまで構築するとはなんなのだ! 安田講堂じゃあるまいし・・・って例えが古すぎたかな? そしてこの非人道的仕打ちはJRに多い。 JRは何の恨みがあって真っ昼間から、全面封鎖の便所掃除をするのだ。 大を我慢するのは、ご存知のように恐らく死ぬより大変な事なのだ。 しかも、あの我慢ってやつは目的地である便所に近づくにつれて緊張感が薄れてくる。それまで尻をギュッと締めていた力が、便所の案内板など見え出すと結構ゆるゆるになるのだ。 そして、便所の入り口が視界に入った時はもう、母の胸に抱かれたような安堵感を覚えるものだ。 その時モップのバリケードだ。尻の穴が、一体全体どんな状況になるかは火を見るより明らかである。 恐らく尻の穴のヒダ一枚でウンチの最先端を押しとどめているに違いないのだ。あと1歩気を許せば、件のウンチの斥候隊はパンツの中に転がり出るであろう。そうなればパンツが一枚オシャカである。 人生長くやってると、そんな経験がないことはない。 そう、あれは忘れもしない品川駅・・・。 ここで便意をもよおしたぼくは案内板に従って便所へと静かに向かったのであるが、なんと入り口にモップのバリケードである。しかし、こんなことで怯むぼくではない。 ぼくは紳士的に掃除のおばさんに声をかけた。 「すいません、入っていいですか?」 「ダメダメ、掃除中だからね」 「でも・・あとどのくらい?」 「30分はかかるよ」 「・・・・・・・・」 「トイレならホームにもあるからさ」 この嬉しい情報に、ぼくは気づかれぬよう尻の穴を再度引き締め、ホームへと踵を返したのだった。 しかし、どのホームじゃい。品川駅にはホームが何本もあるのだ。 だが、この緊急時にもかかわらずぼくの判断能力はまだまだ素晴らしかった。 「山手線と京浜東北線のホームではないだろう。横須賀線か・・・いやいやぼくの動物的直感は東海道本線とみた」 ぼくは躊躇することなく、東海道本線のホームへの階段を降りていった。 そして見た。ホームの先端、距離50メートルに便所とおぼしきセコイ建物を。 ぼくは急いだ。気持ちはフォレスト・ガンプのトム・ファンクスだ。 しかし実際は摺り足状態の歩行である。もう今や身体にいかなる振動も与える訳にはいかないのだ。ぼくはこんな修羅場状態にもかかわらず思い出した。 あれは小学校2年生の時だった。 ウンチを我慢するコツは、ズボンのポッケに石コロを詰め込めばよいと友が教えてくれたっけ・・・。だがホームには石コロがない。 そうだ、両手をポケットに入れ、少し下に押し下げる状態にして圧力をかければ原理は同じだ。この機に及んでも 、なんと云う冷徹な判断力なのだ。ぼくは自分を誉めてやりたくなった。 ぼくは両手をポケットに入れ、摺り足でホームの先端へ向かった。 その時だ、一抹の不安が稲妻のようにぼくの胸に突き刺さった。 先客がいたらどうしよう。 「おい、まだ安心はいかんぞ」 ぼくはぼくのウンチに思わず話しかけてしまった。 先客はいなかった。ウンがよいとはこのことだ。 ぼくは天国のような扉を開けた。もうあと5秒も我慢すればいいのだから。 ぼくの全神経はすでに弛緩状態だった。 しかし、この刹那にもぼくの動物的視神経は見つけた。なんと! おぞましい便器外ウンコが3ヶ所もある。 ぼくは瞬時にその位置を読み取り、サンバの名手のような鮮やかなステップで見事に足の置き場所を確保したのだ。 この後の快感たるや筆舌に尽くし難いのであるが、それも束の間、とんでもない事に気がついた。 紙がない。なぜ余分に紙を置いておかないのだ。紙で思い出したぞ。あれは新橋駅だ。 あの駅には紙の自販機がある。これがケシカラン。50円で紙の束が出てくる。ただし、50円玉のみ使用可で10円玉は使えない。50円玉のない人のために、横に100円玉専用の機械もある。そしてこれは50円の紙の束が2個出てくるのである。 ふざけんなっ!!一回のウンコに100円分の紙が必要かってんだ。象のウンコじゃあるまいし。 なんで10円玉で買えたり、100円玉でお釣りの出る機械を置いてくれないのだろう。 ここだけの話だが、ぼくは以前、100円分買わされて悔しいから全部使ってやった。 そしたら便器の水が詰まってしまったから逃げてやったぞ。 そんなこたぁどうでもいい。品川駅の紙の件だが、この難局に及んでも、ぼくの判断力はすばらしかった。 紙がなくても拭けそうなもので拭けば良いではないか。 タバコのすいがらの紙では・・・無理だ。 切符でなんとか・・・なる訳がない。 おお!トイレットペーパーの芯があったぞ。なんと云うラッキー! ぼくは芯をむしって遂に立派な紙を作成した。5分かかった。 人生ネバーギブアップだ。 感激に浸ったぼくは、それで何気なく鼻をかみ便器に捨てた。 しっ、しまった! 尻をまだ拭いてなかったのだ。 その日、ぼくはノーパン帰宅となった。なぜだか経験者諸君なら解るはずだ。 あの状況では、もう拭けるものはそれしかないではないか。 やっぱりパンツが一枚オシャカになった。 [ESSAY TOPに戻る] |